会計事務所がマーケティングで成功するために
会計事務所がマーケティングを行う理由とは?
会計事務所でもマーケティングは必須の時代になりました。かつては紹介や立地のよさが会計事務所の安定的な成長を支えていましたが、時代は大きく変わりました。デジタル化・競争激化・顧客ニーズの多様化により、「待ちの姿勢」では新規顧客の獲得や既存の顧問先の維持すらむずかしくなっています。会計事務所はマーケティングを取り入れることで、積極的にアプローチし、見込み客に選ばれる存在になる必要があるのです。
会計事務所がマーケティングを行うメリット
市場の状況を把握できる
顧客が求めているものがわかるようになります。サービス内容や費用、競合性や勝率など、市場の状況を知ることは会計事務所を運営するうえで必ず必要になります。顧客のニーズとその変化を敏感に把握することで、経営の軌道を柔軟に修正できるようになります。経営者として知っておくべき内容が詰まっているので、これだけでも非常に大きなメリットです。
効率よく新規顧客の獲得
マーケティングを行わない会計事務所が新規顧客を獲得することは非常にむずかしいです。特に顧問先の少ない状態で案件紹介が期待できない場合には、何かしらのマーケティング施策を実行しなければ新規獲得できずに事業の継続は不可能ともいえるでしょう。
既存顧客の満足度向上
顧客ニーズを把握したうえでのマーケティング視点は強みです。顧問先との何気ない会話でも、顧問先ニーズを把握していれば会話の質が高まり、信頼を得られたうえで新しい案件につながったり、満足度の向上につながります。
ブランド力の向上
マーケティングを行うにはアプローチが欠かせません。多くの場所で自事務所の名前を掲載することになり、多くの人の目に留まります。ブランド力の向上はマーケティングの過程で必要な物でもあり、マーケティングの結果でもあります。
会計事務所がマーケティングを怠るとどうなる?
会計事務所がマーケティングを怠ると、廃業に追い込まれる可能性が非常に高いです。3万件もの競合と戦わなければ生き残ることはできません。積極的に見込み客にアプローチできる計画的なマーケティング手法を確立する必要があります。
顧客を新規獲得できない
Webマーケティングや広告運用、提携先からの紹介も期待できない状況のとき、どうしますか?飛び込み営業や電話営業で案件獲得ができる時代ではありません。会計事務所の競合は多く、顧問先の取り合いです。しっかりとした計画性のあるマーケティングを行わなければ新規獲得はむずかしいです。
営業リソースが大きいまま
会計事務所はマーケティングによる成功の道が見えない限り、営業リソースが常に人員と費用を圧迫し続けます。飛び込みや電話営業では効率が悪く、計画性のあるマーケティングによる新規獲得の目途が立たない限りは営業リソースが肥大化したままになります。
経営が安定しない
上記2つの結果、経営が安定しないことが大きなデメリットでしょう。会計事務所の競合は多く、待っているだけでは存在すら知られない時代です。
会計事務所がマーケティングで成功するためにすべきこと
会計事務所にマーケティングが必須だということはお伝えした通りです。しかし、マーケティングの重要性に関してはなんとなくわかっているものの、どのようにして会計事務所のマーケティングに注力すればよいのかわからない先生方が多くいらっしゃいます。そこで今回は、会計事務所がマーケティングで成功するためにすべきことについて順を追って解説していきます。
下記が会計事務所がマーケティングで成功するためにすべきことの一覧です。
・会計事務所の見込み客とニーズを理解する
・マーケティングの基本を理解する
・マーケティングの成功事例を知る
・マーケティングを実践する準備をする
・マーケティングを実践する
・マーケティングの効果測定をする
・改善を繰り返してマーケティング効果を最大化する
それぞれの項目について詳しく解説します。
会計事務所の見込み客とニーズを理解する
マーケティングとは、見込み客のニーズを把握して、それらを満たせるサービスを提供しているとアピールし、選ばれることです。そのためにはまず、どの見込み客にどのサービスを提供するのか明確にしなければなりません。ここを間違えると、どれだけ広告に費用をかけても、ホームページを立派にしても、成果につながらないばかりか無駄なコストが発生してしまいます。
1. 「見込み客」の定義があいまいだとマーケティングは機能しない
ターゲット像が不明確な場合、マーケティングの方向性がブレやすくなります。
・誰のための会計サービスか?
・どの業種・規模・ステージの企業を狙っているのか?
・地域密着型なのか、広域展開なのか?
会計事務所のマーケティングはターゲットごとに手法も表現も大きく異なります。スタートアップ企業向けとベテラン医療法人向けでは、訴求すべき内容も提供サービスもまるで違います。
見込み客がどのような課題を持ったターゲット像なのかを定義するために、より詳細なペルソナ(サービスを利用する典型的な顧客像)を複数設定してマーケティング計画を立てましょう。
2. 顧客ニーズを理解しないと「独りよがり」なサービスになる
見込み客のニーズとは、現在抱えている課題、あるいは将来的に抱えるであろう課題に対する解決策です。ここがずれていると、どれほど専門性が高いサービスでも響きません。
・「税務申告します」
・「黒字経営のための税務戦略を提案します」
前者も後者もニーズとして十分です。前者は機能的訴求でありシンプルに解決策を提示しています。後者は税務申告はもちろんの事、税務戦略までサポートできる体制が整っているとより詳細に解決策を提示しています。
シンプルに税務申告だけを依頼したい見込み客に、必要以上のサービス提案を行うことは避けるべきです。逆に、経営戦略サポートのように踏み込んだサービスを希望している見込み客に対して「税務申告します」だけではニーズを満たせないでしょう。
このように、顧客のニーズを知ることによって「売りたいサービス」ではなく「求められるサービス」を提案できるようになります。
3. なぜマーケティングの最初に「顧客理解」を行う必要があるのか?
マーケティングはすべて顧客を起点に設計されるからです。
後述する、マーケティング活動の代表的なプロセス「4P戦略」も、すべてこの「顧客理解」を土台にしています。
・セグメント(市場の分解):顧客の分類
・ターゲティング(狙う市場の選定):誰に最も価値を提供できるかの判断
・ポジショニング(差別化):競合と比較して、自事務所はどんな強みがあるのか
ペルソナが不明確だと、これらの設計がブレてしまい「誰にも刺さらないマーケティング」になります。そうなってしまってはマーケティング計画に使った時間も費用も無駄になり「やらない方がよかった」という最悪の結果といえるでしょう。
4. 具体的に「見込み客とニーズの理解」のために行うこと
ペルソナ設定
– 例:年商3,000万の飲食店経営者。創業3年。経理のIT化に関心あり。
年齢、性別、職業、ライフスタイル、課題などからペルソナを設定。さらに、業種や従業員数、企業規模や地域、予算などからセグメント。
課題ヒアリング
課題を抽出し、提供できるサービスとの相性を確認。
なぜその課題を抱えているのか本質的なニーズを理解する。また、解決するためには何が必要なのかを明確にし、見込み客に刺さる言葉で対応する。
競合分析
業界トレンドや市場動向の把握。
費用やサービス内容、付加価値などを調査し、悪い点を排除してよい点を伸ばす。自身が見込み客側のペルソナ像になりきって、競合と自事務所の提案を連続して受けてみるとわかりやすい。
フィードバック収集
現場で接している担当者から「よくある質問」や「断られる理由」を共有してもらう。
求めているサービス内容や費用、または解約理由まで可能な限りフィードバックをもらって情報を収集する。
定期的なアップデートと改善
課題ヒアリング、競合分析、フィードバックの結果をもとに、定期的に施策を見直す必要がある。
ニーズは状況によって変動します。時間が経てば以前仮定したペルソナの見込み客はいなくなっている可能性もある。ニーズの変化を敏感に察知できるように常日頃から、課題ヒアリング、競合分析、フィードバックを繰り返しながらペルソナから再設定できるように心がける。
5. 理解が深まると、マーケティングが機能し始める
・適切な広告媒体が選べる(例:創業者向けならSNS広告、経営者向けなら検索広告)
・ニーズに沿った訴求力の高いコンテンツが作れる(例:税務申告、税務戦略、黒字経営)
・問い合わせの質が上がる(ミスマッチを防ぎ、興味のある人だけが来る)
見込み客とニーズの理解は、マーケティング施策を正しく機能させるために必要不可欠なのです。
会計事務所の基本マーケティングを理解する
会計事務所の見込み客を分類する
・業種
建設業、IT業、医療・福祉、小売業、飲食業など。それぞれの業種で必要な会計処理や業界特有の税制が異なり、専門性を打ち出せる。
例:建設業なら工事進行基準、医療なら特定の医療控除や社保との兼ね合い。
・企業規模
個人事業主、年商1億未満の中小企業、上場準備企業など。
例:規模が大きいほど月次試算表や資金繰り管理のニーズが強くなる。
・エリア
地域密着型か、オンラインで全国対応か。
例:地方の顧客は「顔が見える安心感」を求める傾向、都市部はスピードや効率性重視。
・ステージ
創業期:開業支援、融資サポート、設立登記との連携など。
成長期:節税提案、資金繰りアドバイス、助成金活用など。
成熟期:事業承継対策、相続・M&Aなど。
これらを掛け合わせることで、「都内に1店舗、年商5,000万未満の飲食業、創業3年以内の成長期」のようにより詳細にセグメントできます。
ターゲティング(狙う市場を決める)
セグメントの中から、自事務所が得意とする層や競合が手薄な層を選定します。このセグメントとターゲティングによる絞り込みがマーケティングに重要です。実績から強みを抽出し、経験豊富で対応力のある業種・規模・ステージを見つけることで、強みを生かした得意分野で戦えます。ミスマッチを防ぎ、無駄な予算を省けることも大きなメリットになります。
ポジショニング(差別化)
たとえば、自事務所の過去の実績から「IT系スタートアップ企業の税務戦略に強い」や「飲食業の開業支援を過去1年で20件以上対応している」などの傾向がわかれば、同様の課題を抱える企業をターゲットにすることで、強みをアピールしやすくなります。強みを活かして競合他社との差別化を図ることで、効率的にマーケティング戦略を立てられます。
ベネフィット(見込み客にとっての価値)
見込み客のニーズはさまざまで、価値を見出すポイントもさまざまです。
単純に会計事務所の機能に満足する場合もあれば、その先の成果について求められることもあります。どこの会計事務所でも行えるような標準的な作業ができることは最低限のサービスとして、ほかの切り口を持っておいた方が、見込み客に価値を感じてもらいやすくなります。
標準機能をアピール
「記帳を代行します」
「税務申告を行います」
「キャッシュフロー管理を支援」
「経営分析レポートを提供」
標準機能の一歩先をアピール
「経理に悩まなくて済み、本業に集中できます」
「税務調査にも強く、安心して経営に専念できます」
「利益が出ている理由、出ていない理由を明確にして、なんとなくの経営から脱却しましょう」
「手元にいくら残るかを試算して、計画的にキャッシュフローを管理しましょう」
必要以上にサービスを押し売りしてしまうと印象が悪くなります。見込み客の現在の課題や状況をしっかりとヒアリングして、価値のあるサービスを提供するように意識しましょう。サービスを売ることではなく、顧問先の課題を解決することが目標だと意識すれば、おのずと会計事務所の価値を理解してくれます。
4P戦略(マーケティングミックス)
4P戦略とは、企業がコントロールできる4つの要素であるProduct(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)を効果的に組み合わせることで、見込み客に魅力的に訴求し、サービスの提供につなげるマーケティング手法です。
自事務所において、4つの要素をしっかりと理解しておくことが大切です。
Product(商品)
基本サービス:
税務顧問、記帳代行、年末調整、申告業務
付加価値サービス:
節税コンサル、資金繰りアドバイス、補助金申請サポート、クラウド会計導入支援など
商品パッケージ例:
「創業支援パック(設立+記帳+融資サポート)」
「クラウド化サポートプラン(freee導入+業務設計)」
Price(価格)
透明性重視:
料金を明確にWeb上で提示。パッケージ価格も提示しやすい
業種・規模ごとの料金設定:
例:飲食業向けは売上ベース、IT業向けは取引件数ベースで設定
成果報酬型の提案:
補助金申請などで導入しやすく、顧客側としては失敗時のリスクを排除できる
Place(流通)
チャネルの多様化:
Webサイト、YouTube、SNS(X, Instagram, Facebook)、LINE公式アカウント
オンラインセミナー、リアルな創業セミナー、地域の商工会との連携
紹介ルートの開拓:
地元の金融機関、士業ネットワーク(司法書士・社会保険労務士など)との連携
顧客紹介制度(紹介者へのインセンティブ付与)
Promotion(販促)
コンテンツ発信:
ブログで税制改正、節税術、補助金情報を定期発信
メールマガジンでターゲット別の情報提供
広告:
Google広告(地域名+会計事務所)
FacebookやInstagram広告(創業者・経営者向け)
口コミ・レビューの活用:
顧客の声・事例をWebに掲載
Googleビジネスプロフィールの活用で評価管理
会計事務所がマーケティングで成功した事例
認知拡大のために看板を出されていた 税理士法人SS総合会計様ですが、他の施策は意識して取り組んでいなかったとのことでした。
まずは発信力強化のために、MiGメールによるメルマガ定期配信を行い、顧問先や見込客を含む名刺交換をした全員に向けて、定期的に情報を配信していく施策を導入されました。
結果的に、メルマガによる定期的な情報配信で、顧問先のフォローや見込客との接点を維持する仕組みを整えることにも成功しました。実際に読者からメルマガの感想をいただくこともあり、配信先のリストも増加するなど効果を実感されています。
また、読者の反応を見ながら、ターゲットとなる顧客像や事務所の独自の強み(差別化)を決めることで、施策の一貫性が出るようになったのです。
下記は会計事務所のブランディングに成功された、税理士法人SS総合会計 代表社員税理士 鈴木 宏典氏のインタビューです。インタビュー動画も掲載させていただいておりますので、是非ご参考にしてください。
マーケティングを実践する準備をする
・ターゲットの明確化
・競合分析
・自事務所の強み・弱みを再確認
・予算とスケジュールの策定
・担当者・チーム体制の整備
・準備段階での戦略設計が、成功の成否を分けます。
マーケティングを実践する
・ホームページ制作(必須)
・SNSでの情報発信
・無料相談やセミナーによる見込み客獲得
・Google広告・SEOなどのオンライン施策
・顧客紹介制度の導入
すべてを一度にやる必要はありませんが、今の時代、会計事務所がマーケティングを行うにはホームページは必須です。顧客紹介制度は、ある程度の実績やブランド力がないと信頼値が足りずに紹介数が少なくなってしまいがちです。まずはSNSやセミナー、Web系施策に絞ってPDCAを回すことをおすすめします。
マーケティングの効果測定をする
施策の効果を定量的に把握しましょう。
たとえば、下記のような目標です。
・サイト訪問数、問い合わせ数
・新規顧客の獲得数・単価
・広告の費用対効果(CPA)
・SNSのエンゲージメント
目標設定とKPIの管理は、継続改善の前提です。それぞれの数値については、GoogleアナリティクスやGoogleサーチコンソール、Google広告の運用画面、SNS広告の運用画面にて確認して、過去データと比較して施策の効果を把握しましょう。
改善を繰り返してマーケティング効果を最大化する
なんとなくで運用して成功しても、再現性がありません。しっかりと何がよくてどれほどの効果がでたのかを突き詰める必要があります。逆もまた必要で、何が悪かったのか、なぜ効果が出なかったのか、効果を出すためにはどうすればよいのかを考えて、改善を繰り返すことが重要です。
効果測定の結果をもとに、改善策を講じます。たとえば下記のようなものに注目してみるとよいでしょう。
・流入経路の分析と選別
どのチャネル(SNS、Web検索、紹介、広告など)からの集客が良質な見込み客につながっているのかを分析し、反対に効果の薄い施策にリソースをかけすぎないよう見直しましょう。
例:「Instagram経由の問い合わせは少ないが、Facebook経由は成約率が高い」→Facebook施策を強化する。
・問い合わせ対応プロセスの改善
問い合わせ後の対応スピードや提案の質が、成約率に大きく影響します。フォロー体制や共有化、返信速度に加えて文面の見直しも改善策の一部です。
例:「初回返信が遅くて離脱している」→即日返信を徹底+定型フォローアップを共有化
・コンバージョン導線の最適化
Webサイトやランディングページの導線を点検し、訪問者が迷わず問い合わせ・資料請求・予約などに進めるような構成にします。離脱ポイントを明確にしてから対処するようにしましょう。
例:「セミナー告知ページにCTA(行動ボタン)が目立たない」→申込ボタンを目立つ位置に固定表示
・セミナー・イベント内容のチューニング
セミナーや説明会の参加率・満足度・成約率を測定し、テーマや資料、話し方、配布物を継続的に改善します。
例:「専門用語が多く、初心者向けではなかった」→スライドをわかりやすくビジュアル重視に変更
・既存の顧問先への満足度調査とクロスセル提案
既存の顧問先の声をもとに、サービス改善や追加提案を行うことも効果最大化の一環です。
例:「記帳代行だけ利用しているが、実は節税にも悩んでいる」→年末の個別アドバイスを提案
このように、表面的な数字だけでなく『その裏にある行動・感情・構造』を見て改善を重ねることが、再現性のあるマーケティング成功のカギになります。
「やりっぱなし」にしないことが、マーケティングを機能させる最大の秘訣です。
まとめ
会計事務所にとって、もはやマーケティングは必須の時代です。競争が激化し、顧客ニーズも多様化する現在においては、ただ待っているだけでは集客できません。計画的にマーケティング施策を導入して見込み客のニーズを深く理解し、適切なターゲティングと差別化を行うことで、自事務所の強みを最大限に活かして戦わなければなりません。
マーケティングは一度きりの施策ではなく、継続的な改善と検証が重要です。計画性もなくやりっぱなしで効果測定をしないのではマーケティングとは呼べません。しっかりとペルソナ設定、課題ヒアリング、競合分析、4P戦略といった基本をしっかり押さえ、成功の再現性があるマーケティングを目指しましょう。